耳の鼓膜より奥の、中耳腔(ちゅうじくう)、耳小骨(じしょうこつ)、耳管(じかん)で成り立っている器官を「中耳(ちゅうじ)」と言いますが、この中耳に炎症が起こる病気を「中耳炎」と言います。
一般的に中耳炎と言うと、
①細菌やウイルスが原因で起こる「急性中耳炎」を指すことが多いのですが、このほか、
②急性中耳炎に引き続き起こることが多い「滲出性(しんしゅつせい)中耳炎」、
③急性中耳炎や滲出性中耳炎の治療が十分でない場合に起こりやすい「慢性中耳炎」、
④慢性中耳炎などを繰り返し起こすうちに中耳の一部の上皮組織が増殖して球状になり、耳の周囲の骨を破壊する「真珠腫性(しんじゅしゅせい)中耳炎」などがあります。

急性中耳炎

急性中耳炎は、耳管(じかん)と呼ばれる耳と鼻をつなぐ管を通して、鼻から中耳に細菌やウイルスが入り、急性の炎症が起きてしまい中耳に膿(うみ)がたまって激しく耳が痛む病気です。

急性中耳炎の原因

風邪をこじらせた場合などに鼻や喉(のど)の炎症に引き続き、中耳に炎症を引き起こすのが急性中耳炎です。
中耳は耳管によって咽頭とつながっていますが、鼻や喉が細菌やウイルスに感染して炎症を起こし、その原因の細菌などが耳管を通って中耳へと侵入することで急性中耳炎が起こります。

特に乳幼児は、耳管が大人と比べて太く短いうえに水平に近い状態にあるため、中耳に細菌などが侵入しやすく、急性中耳炎が起こりやすいと言えます。
原因となる細菌やウイルスは、5歳以下ではインフルエンザウイルスが、それ以後は溶血性連鎖球菌や肺炎球菌が多いとされています。
耳の穴から水や細菌が入って急性中耳炎になると誤解されている方が多いのですが、経外耳性の急性中耳炎は実際には稀なケースです。
また、ごく稀に、インフルエンザウイルスなどに感染した時に血液を通して中耳炎を発症するということもあります。

急性中耳炎の症状

激しい耳の痛み、発熱、耳がつまった感じ、聴こえにくさ――などが主な症状です。
小さなお子さんの場合は痛みを訴えられないために、機嫌が悪く、グズって泣いたり、頻繁に耳をさわっているのが見て取れることで、中耳炎が見つかることがあります。
さらに症状が進行すると、鼓膜の一部が破れて外耳道に膿(うみ)が流れ出る「耳だれ」が起こる場合もあります。
大人の場合は重症化、難治化することは比較的少ないのですが、乳幼児、特に保育園などで集団保育を受けているお子さんの場合には、何回も再発を繰り返し、重症化、難治化してしまうこともあるので注意が必要です。

急性中耳炎の診断

中耳炎は、患者さんに発症した時期や症状、発症前後の全身状態などを伺う問診でほとんどの場合診断がつきますが、クリニックでは、耳鏡(じきょう)を用いて、直接鼓膜の状態を見ることで確定診断します。
急性中耳炎の場合には鼓膜の発赤を認めることが特徴的です。
ひどくなりにつれて膿がたまって鼓膜が膨隆し、鼓膜が破れると膿が流出してきます。

急性中耳炎の治療

急性中耳炎の初期治療では、抗生物質や炎症を抑えるお薬を投与するとともに、中耳と耳管を通してつながっている鼻や喉(のど)の炎症の改善を図ります。鼻水がたくさん溜まっていると、中耳炎も悪化したり長引いたりしますので、まずは鼻水を溜めないことが大切です。
そこで、鼻水を吸う処置を行ったり、上手な鼻のかみ方もお伝えします。

また、中耳に膿が溜まることで鼓膜が腫れて痛みが強い場合や高熱が長引く場合は、鼓膜を少しだけ切って、膿を出す「鼓膜切開(こまくせっかい)」をして溜まっている膿を吸い出すと早く治ります。当院ではオトラムというレーザーを使って鼓膜に穴を開けますので、出血や痛みが少ないです。
鼓膜には麻酔をかけるので、ほとんど痛みはありませんし、鼓膜の傷は通常数日から1週間でふさがります。
なお、鼓膜切開を何度も繰り返さなければならないような重症の方の場合には、鼓膜切開で空けた穴が閉じないように、鼓膜ドレーンをはめ込むこともあります。

ドレーンをはめ込み、中耳に常に空気の出入りを維持して膿を溜めさせない状態にすることで、中耳の粘膜が正常に戻るのを期待する治療です。
ドレーンは通常、1ヶ月以上留置し経過観察します。

注意すること

急性中耳炎を放置すると再発をくりかえしたり難聴の原因となる滲出性中耳炎へ移行することがありますので注意が必要です。
また、近年では、抗生物質に対して抵抗力を持った細菌が原因の急性中耳炎が問題になっています。
これは、少し症状がよくなったからといって抗生物質の服用を自己判断で途中で止めてしまう方がいらっしゃることなどによるものです。
抗生物質の使い方については、医院や薬局の服薬指導をしっかりと守っていただくことが重要です。

滲出性中耳炎

滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)は、中耳に水がたまる病気です。
この水は「滲出液(しんしゅつえき)」と呼ばれる体のなかにある水分で、火傷でできた水ぶくれの中身と同じものです。

滲出性中耳炎の原因

耳と鼻とをつなぐ耳管は、中耳の気圧を外気圧に合わせる働きがありますが、風邪をひいたりして耳管が腫れてこの機能が悪くなると、気圧のコントロールが十分にできなくなります。
すると、中耳の気圧がだんだん低くなって、鼓膜が外から見てわずかにくぼんだ状態になり、この状態が続くと中耳に滲出液が染み出てくるのです。
そこで、滲出性中耳炎の原因は、耳管開口部周囲の炎症による耳管の働きの悪さと言えるのですが、耳管開口部周囲の炎症は、急性副鼻腔炎(ふくびくうえん)、慢性副鼻腔炎(蓄膿症(ちくのうしょう))、急性咽喉頭炎、風邪、アレルギー性鼻炎、アデノイド肥大などです。
つまり、鼻や喉周辺の炎症のすべてが滲出性中耳炎の原因となり得るのです。

滲出性中耳炎の症状

滲出液が中耳に溜まった結果、難聴・耳のつまった感じ(耳閉感)・耳鳴り、自分の声が耳に響く、などの症状が起こります。
滲出性中耳炎は炎症自体はそれほど重くないので、急性中耳炎のような激しい痛みを感じることはほとんどありません。
大人の場合の自覚症状は、山に登った時に感じるような耳がつまった感じですが、耳に栓をしているような感じ、自分の声が耳に響く感じ、耳の中で水の音がするなどと感じる方もいます。

一方、お子さんの場合は難聴などを自分から訴えることは稀です。
風邪を引いた後などに次のような状態が見られる場合には滲出性中耳炎を疑い、クリニックを受診することをおすすめします。
*テレビの音を大きくする
*大きな声でおしゃべりする
*呼んでもふりむかない
*電話でのお話ができない

また、風邪をひきやすくいつも鼻がグズグズしている、咳(せき)が続いている、蓄膿症やアレルギー性鼻炎でいつも鼻汁・鼻づまりやくしゃみがある、いびきが大きい、などがあるお子さんは、滲出性中耳炎を併発することが多いので特に注意が必要です。

滲出性中耳炎は乳幼児に多く発症し、年齢とともにその頻度は減少すると言われていますが、健康なお子さんでも2歳までにほとんどのお子さんが罹患し、大多数は気づかないまま自然治癒していると考えられています。
一方、長期にわたり貯留液の改善がみられず、鼓膜の変化・悪化をきたすものもあり、治療せずに放置すれば、癒着性中耳炎、真珠腫性中耳炎などの後遺症を残す難治性の中耳炎に移行する可能性もあります。
長引く風邪などの後にはお子さんの状態を観察し、少しでもおかしいと感じたら、必ず耳鼻咽喉科専門医の診察を受けてください。

滲出性中耳炎の診断

問診と合わせて、耳鏡を用いて直接鼓膜を観察することが必要です。
滲出性中耳炎では、鼓膜の奥に滲出液を認めることができます。
また、大人や年長児以上のお子さんでは、聴力検査を行い聴力低下の程度を調べます。

滲出性中耳炎の治療

抗生物質や消炎酵素剤などを内服し、滲出液が溜まらないようにします。
また、耳管に空気を通して広げ、滲出液が抜けやすくなるための「耳管通気」という治療を繰り返し行います。
2~3カ月間、そのような治療をしても滲出液が抜けない場合は、鼓膜を切開して滲出液を出します。
鼓膜は通常数日でふさがります。
また鼓膜ドレーンという小さなチューブを鼓膜に挿入して滲出液が溜まらないようにすることもあります。
経過を観察しながら、半年から1年、長いときは2年くらい入れておきますが、滲出液が溜まりにくくなってからドレーンを抜くと鼓膜は自然にふさがります。まれに鼓膜に穴が残ることがあります。

注意すること

滲出性中耳炎は内服薬だけではなかなか治癒しない場合が多く、耳管通気や鼓膜切開が必要なことも少なくありません。
また、治療期間は長くかかることも多々あります。
なぜなら、治療を行っていったん滲出液がなくなっても、鼻の状態が悪かったり、耳管機能が安定しないと中耳にまた滲出液が溜まってしまうからです。
一般的に再発しにくくなる年齢は、鼻や喉の状態や耳管機能が安定し体力がついてくる8歳頃と言われています。
滲出性中耳炎になったお子さんのすべてが8歳まで治らないと言うことではありませんが、この頃までは特に注意が必要ということです。
また、滲出性中耳炎は治療が長期間にわたりやすい病気であるとともに一度治癒しても再発の可能性が高い病気でもあります。
そこで、滲出性中耳炎の治療は何より根気よく続けることが大切と言えるのです。

慢性中耳炎

急性中耳炎や滲出性中耳炎、または鼓膜外傷などが完治しないで、鼓膜に穴が開いたままの状態を指します。

慢性中耳炎の原因

鼓膜は、本来、再生能力の強い器官で、穴が開いても通常は自然に閉鎖しますが、炎症の長期化等が原因で閉じないことがあります。
鼓膜に穴が開いている慢性中耳炎では、正常の鼓膜とは異なり外耳道から中耳腔へと細菌の侵入が容易なので、感染を繰り返し起こしてしまいます。

慢性中耳炎の症状

もっとも多く見られる症状は、耳だれと難聴です。
耳だれは感染のある時のみに見られるので常に現われるとは限らず、耳だれが絶えず出ている方から、ほとんど自覚しない程度の方まで患者さんによって様々です。
一方、難聴はゆっくりと進行することが多く、急性中耳炎に見られるような激しい耳の痛みや発熱はほとんどありません。

慢性中耳炎の診断

慢性中耳炎の診断も問診と鼻鏡によって鼓膜を見ることで診断します。
急性中耳炎と異なり発赤はなく、鼓膜穿孔が顕著で、排膿を認める場合もあります。

慢性中耳炎の治療

症状が軽い場合には、抗生物質の内服、局所の洗浄によって治療を行います。
また、耳の中に薬液を滴下する点耳薬を用いて、外から直接炎症を抑えることによって耳だれを止めることもあります。
また、お薬の投与に合わせて、感染の慢性化の要因を明らかにして耳を乾燥させる保存的治療が必須ですが、慢性中耳炎がさらに進んで真珠腫性中耳炎を発症した場合などは、入院による手術的治療が必要となる場合があります。
手術が必要となった場合は、患者さんのお住まいや症状の程度を勘案して、しかるべく提携病院をご紹介いたします。

注意すること

耳だれが完全に止まるまでの治療期間には個人差があります。
一般的に、治療が遅れて耳だれが出ていた期間が長いほど、耳だれが止まるまでには時間がかかります。
なかなか、止まらないからといって通院をやめてしまうと、いつまでたっても治らないばかりか、将来的に手術が必要になる可能性が高くなります。
また、耳だれが止まっても治ったわけではありません。
鼓膜の穴はまだ開いていますので、その後も2~3カ月に一度(できれば1カ月に一度)は定期的に通院していただき、経過を観察することをおすすめします。