解説

耳垢(みみあか)は、医学的には「じこう」と読みます。耳垢と聞くと皆さんは、耳から出る排泄物といったイメージを持つと思いますが、実は、耳の保護のためにあるとの説もあります。その説によれば、耳垢の本来の目的は外耳道を清潔に保つことで、ほこりや汚れから鼓膜を守るだけでなく、抗菌性もあって外耳道の表面を保護しているというのです。また、耳垢は外耳道でも入り口に近い部分だけにできますから、食事をしたり、おしゃべりをしたりして顎(あご)を動かすことで、外耳道から自然に外に出ていくようになっています。古くなって不必要となった耳垢は自然に排出されるので、基本的には頻繁に耳掃除はしなくていいのです。

耳垢は、外耳道にある「耳垢腺(じこうせん)」と「皮脂腺(ひしせん)」から出る分泌物に、剥がれ落ちた角化表皮細胞(かくかひょうひさいぼう:いわゆる垢)や毛髪、粉塵などが混ざってできたものです。
耳垢には2つの種類があって、その外見から、①カサカサに乾いた「乾性耳垢」と②ベトベトとした「湿性耳垢」に分けることができます。乾性耳垢は、乾燥した灰白色で鱗(うろこ)のような耳垢のことで、日本人の約7割がこの乾性耳垢の持ち主と言われています。 


一方、湿性耳垢は、褐色でアメ状の湿った耳垢のことで、西欧人では約9割がこの湿性耳垢の持ち主です。そして、湿性耳垢の方は、乾性耳垢の方に比べて耳垢腺の数が多いことが分かっていますから、耳垢の乾湿の差は主に耳垢腺の分泌物の量の差から来ているようです。

耳垢が関係する病気

耳垢栓塞 (じこうせんそく)

耳垢が大量に溜まってしまって固まりとなり、耳の穴を狭くしたり詰まらせる病気です。耳垢栓塞の症状は、耳の閉塞感、難聴、耳鳴り、自声強聴(自分の声が大きく響く)――といった耳の症状のほか、まれに喉(のど)の違和感、胃の不快感・吐き気――などを感じる方もいらっしゃいます。
お年寄りの中には、耳垢栓塞を気づかずに放置されている方も少なくありません。
お年寄りの難聴を気づかれた場合は、「歳のせいで耳が遠くなった」と思い込まず、まずは、クリニックで耳垢が溜まりすぎていないかどうかをチェックしてみてください。
治療は、耳鏡を用いて観察しながら、耳垢を摘出します。
耳垢栓塞が大きすぎたり、外耳道へ強く付着しているときは、「耳垢水」という液体を使って耳垢をふやかしてから取ります。
耳垢が外耳道一杯に詰まり、鼓膜に付着した状態の耳垢栓塞を両耳同時に除去すると、処置をした後に一時的にふらふらしたようなめまいを訴える患者さんがいます。
そのようなことが想定でき、付き添いの方がいらっしゃらない場合には、片方ずつ2回に分けて除去する場合もあります。
吸引で除去しなければ取れないようなひどい耳垢栓塞の場合は、鼓膜を通した中耳や内耳への刺激で、処置が終わってふらつきを感じる方もいますので、立ち上がる際には注意が必要です。

外耳道湿疹

外耳道の皮膚は表皮層が薄く、外からの刺激には弱いです。
耳掃除をあまりしすぎて外耳道を保護している耳垢を取り過ぎてしまうと、皮膚を荒らしてしまって湿疹になることがあります。
湿疹ができると、痒みが増したり黄色の分泌液が出たりするので、気になってさらに耳掃除をして事態を悪化させてしまうという悪循環に陥りがちです。
場合によっては、外耳道が荒れすぎてしまって細菌や真菌(カビ)の感染を起こし、外耳炎を発症することもあります。
治療は、ステロイド軟膏の塗布や、場合によっては抗生剤・抗真菌剤の塗布なども行います。
この際、「痒くても我慢して耳掃除しない」というのが最も重要なポイントです。